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2006年07月20日
「宇宙登山」Climbing Universe/松本 力展

 形の定まらないフワフワした動きのオバケ。顔からはみ出さんばかりの大きな瞳をらんらんと輝かせる子供。犬とも猫ともつかない尖り耳の動物。これら得体の知れない生き物たちが、入れ替わり立ち代わりスクリーンの中を駆け巡る。画像は粗く、ノイズが走っているようにも見えるが、この粗さが生き物たちの軽やかな運動と相俟って、明滅する光の効果を画面に充実させている。生き物たちは、宙も地もない世界で、重力を忘れて自由自在に飛び回る。松本力の映像作品において、イマジネーションの疾走は止むことを知らない。

 松本はこれまで、手描きによるアニメーション作品を中心に手掛けてきた。

 ノイズのように見える粗さの原因は、無印の再生紙に鉛筆や水彩絵具といったごく身近な画材で描く原画のテクスチャーと、それをビデオで一コマずつ録画するという極めてアナログな手法に因る。

 原画は、B5の再生紙に8分割されたマンガのコマ割りのような形式をとっている。これがプロジェクターで壁一面に投影されると、紙のテクスチャーや鉛筆の粒子が折り重なって多重露光のような効果を伴うため、鑑賞者の目はおのずとミクロの隙間に引き寄せられるのである。
 手作りなのは原画だけではない。松本は、拾った木製のドアを分解したり、家にあったアイロン台を再利用したりして、映写機までも自力で作り上げてしまう。「絵巻物マシーン」と呼ばれる装置がそれである。

 マシーンの形状はアイロン台型や譜面型、車型など様々なパターンがあるが、装置本体の両端にボ ビンを設置して絵巻物状につなげた原画を巻き付け、手動で原画を再生する仕掛けは基本的にどれも同じだ。
 今回の展示はこれまでの活動の集大成とも呼べる内容で、壁面にループで流されるアニメーションのほか、数台の「絵巻物マシーン」、ファイル化された原画集などが観覧できる。

 それにしても、松本の作品がひとつの場に雑多に集められている様子を眺めると、これらを一口に映像作品と呼ぶのは正しくないのではないか、という疑念に駆られる。かといって、映像系のインスタレーションという分類も適当なものに思えない。おそらくは、「絵巻物マシーン」の佇まいが与える不可思議な印象が、あまりに強烈なためだろう。はたして「絵巻物マシーン」はひとつの自律した造形作品なのだろうか?

 おそらく「絵巻物マシーン」は、手わざを活かして余技的に作られた単なる映像再生装置の範疇にはおさまるものではない。松本の言葉によれば、「絵巻物マシーン」の制作は、「『作品』というのともまた違う、一生懸命つくらないと生まれない『もの』。友達を増やしていく感じ」なのだと言う。

 世間にデジタルやハイテクが蔓延すれば、その反動として、アナログや手作りのものに何となく「善的なもの」を見いだす傾向がもてはやされる。しかし松本の作品の場合、このような現代社会への反動や批判的姿勢は、少なくとも「ものづくり」の主要なモチベーションとして読み取ることはできないだろう。昭和の時代を彷彿とさせる古い電化製品や家具を「絵巻物マシーン」の材料として使うのも、懐古趣味ゆえの選択ではなく、松本がたまたま出会ったものや幼い頃から身近にあったものを自然に使っているにすぎないのだ。

 遊び心なしに「絵巻物マシーン」は誕生し得ないだろうが、意外にも質素なその外観、アニメーションを実現するために要する膨大な量の原画、それに費やされる労力と時間を思うとき、ものを作るということがそう単純な志向によってのみ支えられるものではないことを、鑑賞者は教えられるはずである。

 とある病院の小児病棟で開かれたワークショップに参加した際、松本は病室から出られない子供たちのために、持ち運び自由なトランク型の「絵巻物マシーン」を制作した。状況に飛び込み、人やものとの出会いの中で、フレキシブルに対応する作家から生まれるものは、自己完結型の造形作品というよりは、現在進行形のアートと呼んだほうがふさわしいように思われる。
 再び作家の言葉に戻ろう。松本は自分が表現する理由をシンプルにこう語る。

 「子供の頃に持っていた『ものを作りたい』というモチベーションを大人の自分につなげていきたい。」

 子供には子供の、大人には大人の事情がある。ループし続けるアニメーションと絵巻物は、子供と大人の「ものづくり」のモチベーションを一続きの時間の中で結びつけるための、生きたアートなのである。(中島 水緒)


 松本 力展 宇宙登山「Climbing Universe」
 http://www.r-school.net/cld/archives/2006/07/post_85.html
 世田谷ものづくり学校1F IID Gallery(2006年7月7日?8月6日)

 ※また、廃校を利用した「世田谷ものづくり小学校」では「各教室」ごとに様々なイベントが随時行われている。IIDギャラリーは元々図書室だった空間を改造したもの。今後も注目 したいアートスペースの一つである。
 (世田谷ものづくり学校 http://www.r-school.net/index.shtml