2006年07月31日
大巻伸嗣「Liminal Air―Descend―2006」
東京メトロ東西線・東陽町駅下車徒歩3分。こんな所にギャラリーがあるなんて知らなかった。竹中工務店東京本店1FにあるGALLERY A4(ギャラリーエークワッド)。8月11日まで、ここで大巻伸嗣「Liminal Air?Descend?2006」展が開かれている。
白く細いナイロン・ロープで仕切られた会場に入ると白い光が満たされている。床にはアクリルの鏡が敷き詰められ、前方には夥しい数の仕切と同じ白いナイロン・ロープが吊されている。あまりの数の多さゆえ、大きなマッスを形成しているように見える。ロープの下方は全体に波頭のうねりのような形状に切り揃えられている。ロープを掻き分けて進むわけだが、奇妙な恐怖感を覚えてしばし躊躇する。これは筆者だけではないようで、別の観客も一様に先ず佇む。思い切って突き進む。最初はロープの長さが短く密度も薄いので軽く歩んで行くが、少し進むとロープが長くなり密度も増すので、予想以上に抵抗感が強い。入る前に見た距離ではさほどではなかったが、その抵抗感ゆえに無限に続くかのような不安感もつのる。出口が何処かも定かではなくなる。子供の頃、海水浴で波に巻き込まれた経験があるが、その時の方向感覚を失った記憶が蘇ってくる。たぶん大した時間は費やしていない筈なのに、かなりの時間がかかったような錯覚でロープの固まりを抜けると明るい小部屋。何故かほっとして振り返ると、ガラスの壁にスパッと切り取られた波形の断面が窺える。
そして帰りも同じようにロープの中を潜り抜けて行くことになるのだが、不安感はやわらぎさっさと進むことができる。しかし床面を見るとまた別の奇妙な感覚に襲われる。鏡面に映ったロープの束はザワザワと波立ち、風に波打つススキの穂の上を浮かびながら歩んでいるような気分だ。大巻は以前「彫刻の内部」という言葉をしきりに使っていた。具体的な作品としては、ギャラリー空間に彫刻作品を設置し、それを四方から眺めるというのではなく、ギャラリーの壁面、天井、床に装置を設置し、観客を作品が囲繞するというものだ。だからインスタレーション作品と思われがちだが、大巻の作品はあくまでも彫刻。今回の作品はそれを一歩進め、実際に観客がマッスとしての作品の内部に入り、そしてそこから抜け出すというもの。ロープが身体に触れる感覚と進むにつれての抵抗感。そうした身体感覚と、光源の定かではない光に包まれるという視覚的経験。その両者によって作品という異空間を体感する。死と再生の疑似体験といったらいささか大袈裟な表現かも知れないが。(提髪 明男)
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