2007年03月21日
アルフレッド・ウォリス
アウトサイダー・アートというのは正規の美術教育を受けていない人々のアートとされている。知的障害者などの手になるものが多いため誤解されやすいが、必ずしも彼らだけが代表されるものではない。3月31日まで東京都庭園美術館で日本初の回顧展が開かれているアルフレッド・ウォリスもそうした1人だ。ウォリスはイギリスのセント・アイヴスで船具商を営み、70歳を迎えてから独学で絵を描き始める。その絵を「発見」したのが画家のベン・ニコルソンとクリストファー・ウッド。
ウォリスの絵は貰ったボール紙や板など不定型な支持体に、油彩や船舶用のペンキで描かれている。モチーフは街の情景や港、灯台、船舶など彼が漁師として、船具商として身近に接していたものばかりである。描法は確かに稚拙で、デッサンも正確ではなく、何よりも描かれているモチーフの大きさがいい加減で遠近法も狂っている。さらに支持体を回して描いたりしているためか、上下左右の方向もおかしい。だがそこにはなぜか目を釘付けにさせるような魅力に富んでいる。
今回、ウォリスの作品とともにニコルソンやウッドの作品も数点出品されているので、それと比較してみると分かるだろう。2人ともウォリスの影響を受け、似たようなモチーフで一見「ナイーフ」な展開を示している。しかし決定的に異なるのは、ニコルソンもウッドもプロの画家であり、風景画としての体裁をきちんと取っていることだ。つまり描き出されている対象はあくまでも点景に過ぎず、それを巧みに構成している。
だがウォリスにとっては描かれる対象、建物や船舶、波などは風景画における点景などではなく、彼自身にとってどれも愛着があり等価な存在なのだ。だから遠近法を無視して同じ大きさに描こうと、それは彼が見たままの光景、慣れ親しんだままの光景なのだ。とりわけ圧巻なのが波の表現。穏やかに凪いでいる時もあれば、船を飲み込むほどの荒波の時もある。それは漁師として実際に海と対峙している者でなければ分からないことだろう。それを彼は忠実に再現しているだけなのである。美術史的に絵画を見るという脅迫観念的頸木から逃れれば、絵を見ることの、絵を感じることの楽しさを、ウォリスの作品が教えてくれる。(提髪明男)
東京都庭園美術館↓
http://www.teien-art-museum.ne.jp/