2007年04月17日
浜田周展 from restraint
彫刻は身体性が強く問われるメディアだ。ハードな肉体労働のイメージが強く、手間ひまかけて作業工程のひとつひとつをこなしていかなければならない。希薄になった身体性を取り戻すことが何かにつけスローガンに謳われる現在だが、肉体の重さはやはり敬遠されがち。世相を反映してか、彫刻の世界でも身体についての意識が変化しはじめている。
これにはFRPをはじめとする汎用性の高い人工材料が多く出回り、素材の多様化が進んでいることも関係しているだろう。素材の多様化によって彫刻のテクスチャーはバリエーションが豊かになった。結果、外見から素材や作業工程が識別できない作品が少なくないのだ。額に汗しながら鑿をふるったり溶鉱炉で金属を溶かしたりする彫刻家像、身体を酷使して素材と格闘する彫刻家像は、もはや安易に連想されるものではない。物質と身体の連関性が位相を変えたことは、現在の彫刻表現にはかりしれない影響を与えている。しかし、どんな材料を選ぶにしろ、また作品のテクスチャーがどんなものになるにしろ(それがツルツルだろうがゴツゴツだろうが)、内外のせめぎあいから生まれる必然的なリアリティーが彫刻の表面から発せられているのでなければ、その作品はつまらないレベルで終わってしまうことだろう。
浜田周は、鉄や銅、アルミニウムなど、様々な素材を用いて彫刻作品をつくる。
銀座の雑居ビルの地下にあるGALERIE SOLに足を踏み入れてまず出くわしたのは、来場者と向き合うようなかたちで地べたに寝そべりかけた、頭部のない「ひとがた」だった。サイズは成人男性の体格よりやや大きめ。明らかに異様なのは、上半身を走る縦横のラインが身体を縛る拘束バンドを思わせることである。銅でつくられた上半身に対し、下半身は鉄の覆いでスッポリくるまれている。中世ヨーロッパの騎士が身につけている銀色の鎧にも似ているが、ズボンの足のように二股に分かれていないので、足元を固定されたひとがたは自由の利かないきついポーズを強いられているように見える。
何よりも目を引くのは、胸の中央に穿たれた3つの大きなボタンホール状の穴だ。背中まで貫通していないところを見ると、穴はどうやら胸の内部でとまっているらしい。拘束バンドをサスペンダー、下半身の覆いを鎧ズボン、3つの穴を洋服のボタンと見なせば、このひとがたを着衣姿の人間のメタファーとして解釈することも出来るが、身体の内部まで潜り降りたボタンホールは、肉体とも衣服ともつかないひとがたの表面が、身体と世界を分け隔てる抽象的な「界面」であることを端的に物語っている。
不思議なことに、これだけ全身をガチガチに拘束され、生身の人間だったら致命傷になってもおかしくない重要な器官のある箇所に穴を開けられているにも関わらず、ひとがたから被暴力者としての悲惨なイメージは漂ってこない。腹筋の起き上がる途中を思わせる苦しげな体勢も、かたち全体を見ればゆったりとした座椅子に似ていて、どこかユーモラスである。無抵抗ならではの受容力が、あるいは寡黙な抵抗の身振りが、同時にかたちに結実しているのだ。
作家の言葉によれば、縦横に走る線は「人間が社会の秩序や常識、自身の固定概念に縛られている」ことのあらわれだそうだが、この線は同時にひとつひとつの面(ひとがたをかたちづくる面)をつなぐ構成的な意志の軌跡でもある。拘束の線が外部から加えられた暴力の証なのか、自ら組み立てたアイデンティティーの枠なのか、その境界が実は曖昧で両義的に捉えられるものであるように、ひとがたのかたちは外部と内部の相互関係の中でしか立ち上がらないのだ。面と面を溶接した痕跡を丸いポッチとしてあえて残すのも、主体が世界との関わりで感じた齟齬や摩擦を完全に捨象していないからではないだろうか。ここでは彫刻のマチエールとでも呼べそうな意識が、ひそやかに息づいているのである。
こぶしでコツコツ表面を叩いたとしても硬く分厚い金属の抵抗感しか返ってこなさそうな、重量感のあるいささかぶっきらぼうな外観。焼け跡から発掘された棺桶を思わせる、加熱の温度変化を経た銅の色。中身はおそらく空洞だろう。しかしこのひとがたが、内部に虚ろを孕んだ一発ネタの社会風刺で終わらず、個人の身体という有限の檻に引き篭もる自閉的な表現でもないのは、胸の風穴から吹き抜ける空気がポジティブな軽やかさを引き寄せているからだろうか。
人体を収める器めいたつくりが棺桶を連想させるとしても、死のイメージは微塵も感じられない。空洞のなかで、まだかたちを持たない新しい身体が、再生の契機を伺っているに違いない。(中島水緒)
浜田周展 from restraint GALERIE SOL(4月9日?4月21日)
http://www005.upp.so-net.ne.jp/SOL/EXHIBITION/2007/20074hamada.htm